どうして?馴れてくれない猫の「シャー」

■猫の「シャー」の心理

猫が「シャー」をするのは威嚇、というのは良く知られていると思います。
猫は「シャー」という音を発すると相手に攻撃を仕掛ける、ケンカをするイメージがありますが実はそうでもありません。猫にとってケガを負って生きていくことは死に近づくことを意味します。高い身体能力が武器でもある猫にとってケガは大事な武器を失う事と同じです。そのためできるだけリスクのある行動を避けようというのが猫の心理です。威嚇に思える「シャー」は、実はリスク回避、身を護るための「シャー」でもあるのです。

■「シャー」は防御、ディフェンス

ディフェンスの意味は防御・守備・防衛。攻撃ではなく護りです。
家猫の祖先はリビアヤマネコ(学名:Felis silvestris lybica)で、アフリカのリビアなどに生息していたそうです。
そこでの脅威のひとつが毒蛇です。
毒蛇に噛まれたら命を落とします。蛇の攻撃スピードは優れており獲物を捕らえる能力も正確です。いくら身体能力の高い猫でも蛇の攻撃でケガをする可能性は高いです。そのために蛇との闘いを回避しようと蛇の発する音を真似て威嚇する、要するにケガをしないためのディフェンスが「シャー」なのです。
なので新しく家に迎えた猫が「シャー」をしているときの心理は怖い!あっちへ行って欲しい!なのです。

■シャーの訳は近づかないで欲しい

新しく迎え入れた猫に威嚇されると人間も怖いし、おまけに猫パンチも飛び出すと馴れてくれない猫にもどかしさも感じますが、猫としては知らないところに連れてこられた、怖い人間がいる、安心できる場所へ逃げられず追いつめられた、ピンチ!という恐怖の中の必死の抵抗だという事を忘れないであげてください(シャーとうなる猫の目をみると頑張って威勢良くしているけど本当は怖くて仕方なさそうな不安が見えることが多々あります)。
そんなときは目をジーっと見ないで目をつぶった顔をみせたり、少し体勢を引き気味にしてあげます。

シャーの状態を更に追いつめて恐怖でオシッコやウンチを漏らしたという話を聞いたことがありますが、その時の猫の恐怖心が記憶に深く刻まれると余計溝は深まるばかり。休み休み馴らす方が「急がば回れ」だと思います(まだ家に迎えたばかりの猫のストレスは日に日に増すことが多いです。この頃は逃げ惑い、ひっかいたり、噛む可能性もあるので気を付けてください)。

■無理に追い詰めない

猫からみたら人間はとても大きいです。
大きい物への抵抗はどんな生き物でも必死です。逃げられるなら逃げたいところ、出口がないわけですから半ば命がけの覚悟で威嚇していたりもします(笑)。
猫は驚かされることや恐怖が苦手です。まずはそんな猫ちゃんの気持ちを知ることが慣らしのコツでもあります。人間の24時間という時間の流れではなく、猫脳の時間の流れで気長にお付き合いしてください。
テレビの後ろやソファーの下などほんのわずかな隙間に逃げてしまうことは多いです。
その場所が危険な場所でなければ少しその場所で隠れさせてあげることもよいと思います。猫は隠れながら人間の行動を観察して様子をうかがっています(ベッドの下や押し入れの中などに隠れるための段ボール(エスケープゾーン)を設置するという方法もあります)。
また、この頃の猫は出口を観察しています。必ず脱走対策を施してください。

■馴らしは少しずつでOK

ニャンニャンみずほで保護した猫の中には、飼い主がいなかった時代に何かしら怖い経験をした猫もいます。
親が捨て猫で生まれながらの野良の中には人に近づかないことで生き延びてきた猫もいます。そんな保護猫たちの中には人間が「危険」というイメージに記憶されている猫もいます。
でも、猫は学習をする生き物です。人間を観察しています。猫のそばではゆっくり動く、あまり大きな音をたてず動くようにしてみましょう。猫も経験で少しずつ変わってくるはずです。

時間はかかりますが、毎日の積み重ねで怖い人ではなさそう、自分を襲う気はなさそうと学習することで、飼い主と猫の関係は築かれていきます。
この2~3日少しいい感じだったのに今日は全くダメ、振り出しに戻ったということもよくあります。そこは人間も毎日同じ気分ではないのと同じです。きっと猫も安心して過ごしたいと思っているので気長に待ちましょう。

■猫の人馴れには長期戦で構える

これまでの保護猫たちの経験や性格は様々です。すぐに人に馴れてくれる猫もいれば、本能の強い猫、頑固な猫もいます。
そもそも猫の人馴れとは、人間の言葉に置き換えると「心を開く」「信頼」「安心」辺りではないでしょうか。
今日会ったばかりの人を信頼できない、それは人と人の関係でもいえることです。
しかも相手が猫なので焦らないことと進展の少なさに人間の方がもどかしい気持ちを抑えるようにしていくことが大切です。

これから始まる長い長い保護猫との暮らし、後から見ればこの時間もきっとよい思い出となるはずです。せっかく用意した猫ベッドやタワーにくつろいでくれなくても少し待ってあげてください。